≪最初 <スノーシューティ… |TOP| 夏草の線路②> 最新≫

夏草の線路①

テーマ:上士幌ストーリー【創作】

以降のストーリーは、1年ほど前にブログで連載した創作に加筆修正したものです。 
大抵の場合、舞台は架空の所としていますが、ここでは重要なアイテムが『タウシュベツ川橋梁』であったことから糠平という設定のままにしたものです。
若干の事情の違い等があるかもしれませんが、そこはそれ、大目にみてください。
初めてタウシュベツ川橋梁へ来たときに、その場にいた恋人たちを見てて思いついたお話です。カエル


【夏草の線路】  

夏草の線路 

「ん? なんだ…?」

仕事の手を止めてふと思った。
耳の奥で「ボーッ」というような音がしたような…
いつ頃からか、時折耳の奥で「ブーン」って聞こえることがあった。
耳鳴り…? 今日のは、特別すごい感じだよ。疲れ溜まってるかな…?

あまり気にはしてなかったその音が奇妙にはっきりしてきたのは
仕事で来季のツアー旅行企画の原稿を入力中のことだった。
「北海道遺産:幻のアーチ橋群を巡る旅」
添付写真のメインは『タウシュベツ川橋梁』。
ボロボロにささくれ立ったアーチ橋…。
糠平ダム建設に伴い、湖底に沈む旧国鉄士幌線の旧糠平駅を含む旧線の遺構。
夏の増水期は、その姿のほとんどを湖に沈めてしまうところから『幻の橋』と呼ばれているそうだ。

「廃線跡を見る旅か…こういうのを見たがる人もいるんだなぁ…」

緑に埋もれるアーチ

興味でもないと廃墟の一部にしか思えないけど。
などど言う自分自身がこの辺りの出身だ。

ホルガ・タウシュベツ上士幌町で生まれ、町内の大雪山国立公園にかかる糠平という温泉街で育った。小学校は街にあったけど中学以上になると毎日、街までの道のりをバスで通う。その長い道のりに正直うんざりした…。
でも、高校は遠隔寮があったけど自由がないような気がして、そこに入らずに3年間バスで通い続けた。
僕が生まれるずっと前は、家の裏にも線路が通っていたらしいが、今は鉄路の痕跡を累々と残した軌道や遺構が残るばかり。路線が廃止になった時、代替運行された乗りなれたバスも今では利用客も少ないのだろう。

発電所

ここも古くは林業景気や発電所用のダム工事で栄えたらしい。
実家も旅館業で小さい頃は、毎日知らない人がたくさん訪れていたが、旅行自体の多様化や円高でむしろ海外の方が割安になったり、人気観光地の集中…いろいろな要因で集客は減ってきている。
それはなにもここに限ったことではないけれどね…。
それでも、温泉街近くにスキー場も併設されていることや北見方面へ通じる三国峠の通年通行が可能になったことから集客増も期待されていた。
おりしも『秘湯ブーム』というものもあった…。

高校を卒業してから、札幌の専門学校へ進学。
故郷から大きな街へ飛び出し、同じように各地から集まってきた仲間と人生の楽しさを分かち合った。2年という短い時間ではあったけれど…
程なく僕達は、就職という渦に巻き込まれ、ぎこちないスーツ姿で企業訪問を繰り返し、何とか今のツァー企画会社に入ることができた。

川
 
「黒石君ってさ、ここの町の出身だったんだって?」

「あ…はい!」

「じゃあ、このタウシュベツの橋も良く見ていたんだ」

脇に立った課長が『幻の橋』の写真を取ってしげしげと眺める。

「いいえ うちからはかなり離れているんですよ。近くまで行くにも林道を通りますから自転車で行ってこれるような場所じゃありませんし…僕もここまで行った事はないです」

「そうか…でもロマンだよね。これは」

「ロマン…ですか?」

「そう 古のロマン… 先人の労苦の結晶が湖に見え隠れしてさ、なんか…こう、神聖な場っていう感じがするじゃないか。これこそ北海道遺産にふさわしい」

「はぁ…」

「どんな過酷な土地でも人は入っていくんだよね。あくなき冒険心っていうか…」

五の沢そう、数年前にこの旧国鉄士幌線の橋梁群が北海道遺産に制定されたのだ。
それ以前からも、この「タウシュベツ橋梁」を始め、あちこちに散っているアーチ橋が鉄路や廃線のマニアの被写体として注目されていたから北海道遺産に制定というのもうなずけるのかもしれない。
劣化した危険な構造物として順次取り壊される運命もあったのだそうだけれど、ものの価値は変わっていくものだ。
全てとは言わずとも小さい頃から、そんな「古の残骸」を見ていた僕にとっては、さほど魅了されるものではなかったけれど。
そこに暮らしていると日常風景の一部になって、鑑みることもなかったなぁ。
それが仕事で扱うようになるのも何かしら運命なんだろうか…。

「それとさ…黒石君?」

「はい?」

「いつも無理な納期のもの引き受けてもらってて言い辛いんだけど…ちょっと有休の方、なるべく消化する様にしてもらえないかなあ」

「いやぁーそう思っているんですけどね。なかなか…」

「うーん君の立場も解るけどさ、関係機関とかの風当たりもあってさ。内部でも取りづらい雰囲気とか…上からも業務の偏りを言われてるしさ…」

「そうですか…」

「まぁ!君は当てにしているから!ちょっと顔立ててくれよ。リフレッシュ休暇ということでさ」

色々問題もあるようだな…
そんなわけで翌月、GWも過ぎた行楽の小休止といった季節に1週間の有休休暇をとった。行先は特になかったので、たまには実家でゆっくりしてこようか。いつもは年末年始に顔見せ程度でトンボ帰りしていたから…。

湖

「なしたのさ? 仕事辞めたんかい?」

「違うって!いろいろ職場の体制の問題もあってさ 休みも適正に取らなきゃなんないそうだよ」

「したって ずいぶん変な時期なんだねぇ…」

「商売のほうは近頃どうなのさ」

街へ至る道「厳しくなったなぁ 去年のスキー場のゴタゴタに比べれば、今年は雪も多かったし、スキー客は、まあまあだったか…。宿泊は、いまひとつというところだったけどな…。」

「うちはまだ常連さんのひいきがあるからね でもどこも厳しいよ…」

峠が通年通行となったからと言っても諸問題があるようだ。

「あの、枡見さんのお嬢さん。義江ちゃんって子。 今はNホテルの方に勤めてるよ。うちにも回覧もって良く来てくれるんだよ」

街中の川「…! まだここにいるの?」

義江というのは、高校時代ここから一緒に通っていた子だ。

「あそこのお父さん、定年で帯広の方へ移ったんだけどね。もう3年くらいなるかな…義江ちゃんは、もうこっちで仕事していたから残ってるだわ」

そっか…まだいたんだ… でも、あれからもう7年…。
何も気づかずに忘れていた記憶がそっと首をもたげてきた─

 

タウシュベツ夏
 
「タウシュベツへ行きたいね。幻の橋を見に…」

「!」

 おかしな耳鳴りがまた聞こえた ボーッていう…汽笛みたいな感じの…

(つづく)

コメント

プロフィール

ねこん

こんにちは 『ねこん』です。
『時の忘れ形見』を探してあちこちドライブしています。どうぞよろしく。

上士幌は心の埋蔵遺産がたくさんあります。
「幻の橋」や地球創生を思わせる温泉など…
ここでは、町のシンボルでもある『タウシュベツ橋梁』だけではなく、上士幌町のちょっとしたことを見つめていきます。 

忘れ形見紀行 ルイン・ドロップ

このブログの読者